【フレーズの構造】枠組みから考えるメロディーの作成
作曲で、作られたメロディーは曲の構成の中で何らかの役割を持っています。今作っているメロディーの構成上の位置づけを理解し、その必要性に応じたメロディーを作る方法の一つとして、構成上の要求を枠組みと考えてメロディーを作成する考え方をご紹介します。
前回の記事と同じく今回もコード進行を決めてからメロディーを作る方法です。特に続きではないですが一応前回の記事も参照していただく事をおすすめします。
モティーフ・フレーズ・ピリオド
一つの曲は、曲全体→ピリオド→フレーズ→モチーフの順で小さな単位に分解出来ます。
曲を構成するモティーフ・フレーズ・ピリオドの構造を見ていきます。
ピリオドと曲の構成
以前に記事でも書きましたが4小節くらいのメロディの小単位をフレーズといいます。
フレーズは2個(場合によって3個以上の事もありますが)で一区切りになり、これをピリオドと呼びます。
ピリオドが一つの単位になって、曲全体が構成されます。
構成は自由にデザインすればよいのですが、一応目安として、よくあるAメロ・Bメロ・サビ、という構成でざっくりとイメージを掴んでもらう為に、曲全体を構成するピリオド数と時間の関係を考えてみます。
通常はAメロ・Bメロ・サビの、Aメロは2ピリオド、Bメロは1ピリオド、サビは1~2ピリオドで構成されます。短い方でいくと合計で4ピリオドですので32小節、いわゆる1番・2番という繰り返しで考えると64小節という事になります。
これに前奏・間奏・後奏があります、これも短めの例で1ピリオドづつとすると合計3ピリオドの24小節です。
合わせて曲全体で11ピリオド、88小節です。
時間への換算を、計算しやすい例で、120BPMとして考えます。
BPMは曲の速さの単位で「ビートパーミニッツ(Bbeat Per Minute)」つまり1分間で何拍かを示します。ですから120BPMだと1拍に0.5秒、4拍子だと1小節2秒です。
88小節の120BPMだと176秒で、2分56秒になります。
実際にはもう少し前奏が長かったり、間奏に楽器のソロが入ったり、2番のサビを繰返したり等で、もう少し長くなって短めの曲で3分と少しと言ったところでしょうか。
一般的なポップスだとこんな感じの構成です。
二部形式
二つ以上のピリオドで構成される構成形式の基本として、二部形式を取り挙げます。
唱歌等でもよくある形式で、下の音の様なものでです。
二部ですから2ピリオドの4フレーズで構成されます。
一つのピリオドがメロディーの一区切りとなりますので、前半のフレーズは弱い終止感、ピリオドの終わりでもある後半のフレーズの終止はそれよりも強い終止感になります。
最初のフレーズであるピリオドAの前半がフレーズa、これが最初に提示されるメロディーになります。
ピリオドAの後半はフレーズa’、つまりフレーズaのバリエーションでフレーズaが少し変化した形です。
ピリオドBの前半のフレーズbでフレーズaと対比する新たなメロディーが提示されます。
締めのフレーズであるピリオドBの後半のフレーズは、フレーズa’の繰り返し、a’とは違うフレーズaのもう一つのバリエーション、フレーズbのバリエーション、あるいは、また違うメロディーのフレーズc、のパターンがあります。
各フレーズが割りとそのまま起承転結のイメージです。
フレーズの構造
次に二部形式のピリオド内のフレーズの構造について見ていきます。
例が有った方が分かりやすいと思うので「春の小川」を例に説明したいと思います。
「春の小川はさらさら行くよ」というあの曲です。Wikipediaの該当ページに楽譜も有りますので、良かったらチェックしてみて下さい。
フレーズの区切りの休符
「春の小川」のメロディーは「a-a’-b-a’」という構成になっています。
楽譜を見ていただくとすぐに目つくと思いますが、各フレーズの終わりに休符が入って区切られています。
フレーズは4小節程度の長さ、と説明しました。4小節くらいの長さというのは一息で一気に歌える長さでもあります。逆に言うとフレーズの区切りには休符が入らなければ歌いづらく、聴いた感じも良く言えば意外性のある、悪く言えば不自然なメロディになります。
モチーフはフレーズを構成するメロディーの最小単位で、通常は一つのフレーズが長さ2小節くらいの二つのモチーフで出来ています。
この曲ではフレーズ内のモチーフの区切りがあまり明確になっておらず、休符も入っていませんが、ポップスだと普通はもっとリズム割が細かくてリズム形も複雑になりますし、またバックの楽器の音も有りますので休符が入っても間が保ちやすく、流れも保たれますのでモチーフ毎に休符を入れた形式になっていることが多いです。その方が歌いやすく、またモチーフの区切りが明確になって聴いても分かりやすいので。
フレーズの最後の音
メロディーの内容を見てみます。
ピリオドAの前半・後半の両フレーズを較べて、違うのは最後の小節だけです。
ピリオドBも同じですが、ピリオドの前半のフレーズはEで終わり、後半のフレーズはCで終わっています。
#や♭がついていないのでキーはCメジャーです。つまり前半のフレーズは第3音で終わり、後半のフレーズは主音で終わっているという事になります。
この最後の音の違いが、単音のメロディーでも前半のフレーズと後半のフレーズの終止感の違いを作り出しています。
更にモチーフ毎に休符を入れて一つ一つのモチーフを際立たせた場合は、前半と後半の各モチーフの最後の音もモチーフの対比とフレーズのまとまりを左右する要素になります。
モチーフの構成
この曲の構成をもう少しく細かく見ると下の図の様になります。
この曲はフレーズaとa’の違いが最も少ない例です。上にも書いた様に前後のフレーズで終止感の違いを出そうとすればモチーフa2とa2’は必然的に違うものになりますので。
他のパターンとしてはモチーフa1も全くの別物にならない範囲で変化させてモチーフa1’とする事も考えられます。
続くフレーズbはフレーズaと対比し、フレーズa’に繋がるフレーズです。
この曲の場合はモチーフa1とb1の違い、つまりa1が小さな2つの上りで構成され、b1は2つの横向きの動きで構成される事と、a1がE音から始まりb1がD音から始まる事によって対比が形作られます。
モチーフb2はa2’に対して、前半の小節で音程の違いで対比しつつも下行する形で類似性を持ちます。この類似によってフレーズbとa’が繋がった時の統一感が保たれる訳です。
こういった感じで、リズム形・メロディーの動き・音程等の要素で対比と類似を作って構成を組み立てます。
メロディーの枠組みを作る
という事で、ここまでで唱歌「春の小川」を例にとって構成の基本である二部形式の構成上のポイントを確認してきましたので、それに基いてメロディーを作る時の「枠組み」を実践的に考えてみたいと思います。
a-a’形式のピリオドの例で進めていきます。
先に書いた様に、各モチーフの終わりには休符を入れて区切りにするのが一般的で、実際にその方が良い場合が多いです。休符の長さは自由ですが取り敢えず4分休符で置いてみます。場合によってはフレーズの途中の休符は無くても構いません。
コード進行
まずは形式に沿ったコード進行について。
フレーズの終止形は前半のフレーズがⅤで終わる半終止等比較的終止感の弱い終止形にして後半のフレーズをⅤ7→Ⅰで終わる正格終止等の終止感の強い終止形にします。
要は後半のフレーズ方が強ければ良いので、半終止と変格終止等自由に考えて構いません。またコード進行だけでなくメロディーでも終止感の違いは出せますので同程度の終止感でも作れなくはないです。
前のモチーフは同じか似たメロディーにしますので、コード進行も同じ、または同じメロディーをのせられるコード進行にします。ルート音の音程差が3度等の構成音が似たコードであれば、多分同じメロディーをのせられるはずです。
a1とa1’として音程の違う相似形のメロディーにするなら、
Ⅰ→ⅡmとⅥm→Ⅶm7(♭5)等前後のルート音の音程差の関係が同じコード進行にするというパターンも考えられます。
モチーフの最初の音と最後の音
さて、コード進行が決まったら次に各モチーフの最初の音と最後の音を置いてみます。
モチーフの最初の音は、テンションで始めると場合によっては音が外れている様に聞こえたりしますので、コードトーンで始めるのが無難ではあります。
弱起、つまり小節の1拍目以外の位置から始める場合は、1拍目がコードトーンである事を想定した音から始まるのが無難と言い換えられます。(後ろにずれる場合は実際には1拍目のコードトーンはメロディーには無い訳ですが)
ですので弱起にする場合でも取り敢えず1拍目の位置に置いてみます。
弱起はピリオド全体の位置がずれるのが普通ですから、モチーフの区切りの休符も位置が変わります。
先にも少し書いた様にモチーフの最後の音でメロディーの終止感の違いが出ます。
休符が入る前の区切りになる音である事を考えると、まずアボイドノートは避けた方が良いです。
アボイドノート以外の音をルート音・ルート以外のコードトーン・テンションに分類すると、終止感の強い順に ルート音>ルート以外のコードトーン>テンションとなります。
ルート音だとそこで一旦終わった様な区切りとなって、ルート以外のコードトーンだと区切りにはなっても終わったと言うより一旦休止という感じに、テンションならまだ続きそうな余韻を含んだ感じになります。
なので、定式的にはモチーフa1、a1’はテンションかルート以外のコードトーンで、モチーフa2はコードが半終止ならルート音でも良いでしょうし、それ以外ならルート以外のコードトーンが無難でしょうか、a2’はピリオドの終わりになりますのでルート音が一般的だと思います。
前後の呼応
ピリオド内の前後のフレーズもそうですが、フレーズ内の前後のモチーフは、ある程度の対比と類似性があり、全体としての統一性を持つ必要があります。
それが出来ていれば感覚的には聴いた時に、前の部分が問いかけで後ろの部分が答えの様に感じます。これを「Call and Response」とか「Question and Answer」と言います。
どうすればそういう風になるのかを一概に言うのは難しいのですが、基本的にはまず前後の区切りが明確である事と終止感に違いがある事、そして先にも書きましたが、リズム形・メロディの動き・音程、のどれかの要素が対比して別の要素で類似性を保つ事だと思います。
比較的簡単にできて効果的なのは、音程の動きが最後の部分で、前のモチーフ(フレーズ)は上り(ルート音から遠ざかる動き)で後ろのモチーフは下り(ルート音に帰る動き)にして、それ以外の部分の音程の動き、またはリズム形を類似させる方法です。
実際のやり方まとめ
実際のやり方としてまとめると、まず一応仮にでも良いのでバックでコードを鳴らす楽器を作っておきます。
DAWのエディター画面上で、コードトーンを確認して、そこに漠然とで良いのでレンジと大雑把なメロディーの流れをイメージしながら
最初の音→ルート音を含めたコードトーン
最後の音→出したい終止感によってルート音・ルート以外のコードトーン・テンション
から選択して置いてみる訳です。
図にするとこんな感じになります。
図はキーがCメジャー、コード進行はC→Em7→Dm7→G7で、モチーフa1、a2の例です。
薄いピンクがルート音で黄色がコードトーンを表してます。
赤い矢印がイメージしたメロディーの流れです。図では置いた音が8分音符だったり4分音符だったりしていますがこれはあまり深い意味は有りません、後で修正することを前提に適当に置いてみます。
図の例では前後のモチーフで音域と方向性(全体として前のモチーフは上り、後ろのモチーフは横向き)で対比していますので、リズム形で類似する様意図しています。
モチーフの最初の音と最後音を置いたら、音を聞いてみてもう一度メロディーの流れのイメージを確認します。これだけでも基準ができる事で何も無いよりは大分イメージを絞りやすくなると思います。
後は枠組みをもう少し詰めたければ更に各モチーフの最高音と最低音やコードが変わる前後の音等を置いてみるか、もしくはリズム形を考えてメロディーを詰めていく、等やりやすい方法でイメージしたメロディーの流れに沿って作っていきます。
最後に
今回のは基本的に他の方法と合わせて使う方法というか考え方ですので、単独で考えると、方法というには漠然としていて、説明を読んだだけでは分かりづらいかもしれませんが、実際に作曲する時、考え方として覚えていていただければ、多少は役に立つのでは無いかと思うのですが、いかがでしょうか。