フリーでおすすめの歪み系VSTエフェクターと使い方
歪み系エフェクターと一括りで言っても、その種類や使い方も様々です。今回は歪み系エフェクター全般について簡単に解説し、比較的色々な目的で使いやすそうな、SGA1566・FUZZPLUS 3・DYSTROYEDの3つを紹介し、使い方を説明します。
歪み系エフェクターとは
歪み系または汚し系とも呼ばれます。歪み系のエフェクターというと、ギターでよく使われるディストーションを思い浮かべるかも知れませんが、種類や使い方も色々で、もちろんDTMでも使う機会は多いです。
私もそうだったのですが、最初に歪み系のVSTプラグインをダウンロードしようと、探した時、ディストーション・オーバードライブ・ファズ・クリッパー・サチュレーター・ビットクラッシャー等、様々な名称が出て来てそれらがどう違うのか分からず戸惑ったものです。
まずは、その辺の用語を簡単に整理する所から始めます。
歪み系エフェクターの種類
まずざっくり言えば用語としては「ディストーション」というのが広義では歪みそのものを指し、最も一般的な用語です。その他の用語は歪ませ方などを限定して指します。
オーバードライブ
オーバードライブは過負荷の意味で、この場合はアンプ等に限界を超えて出力させようとする事です。この時、波形の限界点を超えた部分がつぶれて歪が発生します。こうして歪みが発生するのを「クリップする」と言います。
多くの歪み系エフェクターは、オーバードライブによって意図的にクリップさせる、またはその状態をシミュレートして歪みを発生させています。つまり、原理的にはクリッパーとオーバードライブは同じ意味という事になります。
ファズ・サチュレーターも原理的には同じですが、歪の発生する機器によって歪み方に違いがあり、その違いによって分類されます。オーバードライブも狭義としては歪み方で区別され、通常は楽器用アンプの歪みを指します。この辺の用語の使われ方は若干不明瞭な所もありますが、おおむね、「オーバードライブ・ファズ・サチュレーターは同じ原理だけど歪み方に違いがある」と思って頂ければよいです。
歪み方の違いと言うのは、もう少し詳しく言うと歪の度合いと歪みに伴って付加される倍音の違いです。
ハードクリップとソフトクリップ
クリップには大きく分けてハードクリップとソフトクリップがあります。
クリップした時に限界点でそれ以上は上がらなくなりますので、模式図的に考えれば限界点でスパっと切った様に水平になり、限界点に達した点と限界点から離れる点で角が出来る様に思えます。実際には完全に角にはならずに機器の特性に応じて丸みが付きます。
この丸みが小さくほぼ角が立っているのをハードクリップ、丸みが大きく滑らかに変化しているのがソフトクリップと呼びます。
以前リミッターの回で「リミッターでは大なり小なり歪みが発生する」という様な事を書きましたが、クリッパーは要するに歪を発生させるためのリミッターみたいなモノで、違うのはクリッパーはハードクリップかソフトクリップかを調整できる事です。
真空管アンプや磁気テープ等のアナログ機器で発生する僅かな歪み等はソフトクリップになります。
サチュレーター
上記の真空管アンプ等で発生する穏やかな歪みをソフトサチュレーションと言い、サチュレーターはこのソフトサチュレーションを発生させるエフェクターです。
楽器用アンプを意図的に歪ませた音を再現するオーバードライブ等よりも歪みの度合いが穏やかで、真空管(チューブ)や磁気テープのサチュレーションをシミュレートしたチューブシミュレーター、テープシミュレーターもサチュレーターの一種です。
ビットクラッシャー
ビットクラッシャーはクリッパー等とは原理が異なります。
音声をデジタルデータとして保存する時の音質を示す指標にビット深度とサンプルレートがあり、「16Bit44.1kHz」等の様に表示されます。簡単に言うと音の波形を棒グラフにしてデジタル化するのですが、棒グラフの高さを何段階で表すかの細かさがビット深度で、棒の本数がサンプルレートです。
ビットクラッシャーではこのビット深度を落としてローファイ化することで歪が発生します。サンプルレートを落とす機能の付いたプラグインもあります。
歪み系エフェクターの使い方
歪み系エフェクターを使う目的は音を歪ませて太くする事と歪みに伴って付加される倍音による音色の変化です。サチュレーター等を調べているとよく「暖かみを増す(Warm up)
」という表現が出てきますが、これは倍音による音色の変化を指しています。
極端に言うと、ガッツリ歪ませて図太い音にするか、微かに歪ませて音の暖かみを増すかという2通りの使い方があるとも言えます。もちろんその中間的な使い方も出来ます。
微かに歪ませて音の暖かみを増す方の使い方は何の楽器にでも、あるいは曲全体にも使えますが、特にドラム、ボーカル等に使うと効果があります。
ガッツリ歪ませるのはギターがすぐに浮かびますが、他にはシンセやベース等でも使われます。
また歪み系とモジュレーション系を組みあわせて使う事も多いです、その場合は歪み系を先にモジュレーション系を後にした方がまとまりの良い音になります。
おすすめの歪み系VSTプラグイン
フリーで使いやすいVSTプラグインとして、SGA1566、FUZZPLUS 3、DYSTROYEDの3つを紹介します。どれもあまり操作で悩む事も少ないかと思いますが、一応操作方法も簡単に説明します。
3つとも全般的に使えるかと思いますが、あえて言うなら歪みの度合いを小さくしたい時にはSGA1566、ガッツリ歪ませる時はDYSTROYED、FUZZPLUS 3はその中間でどちらでもという感じでしょうが、あくまでも目安で逆にも全然使えますが。
SGA1566
ダウンロード:Shattered Grass Audio SGA1566
配布元の説明によると、シングルチャンネルの真空管プリアンプの基本にし、それにトーンコントロールを付けてステレオにしたシミュレーターで、リアルタイムで回路全体をシミュレートしてアナログサウンドを実現できるけれども、これはCPU負荷が高いので正確さはやや落ちるが負荷の少ないモデルと「CPU」のトグルスイッチで切り替えられるそうです。
控えめにも強めにも、使いやすいおすすめのプラグインです。
歪の度合いは、画像のGUI左下部分の「OUTPUT」を下げて「INPUT」や「GAIN」を上げると強くなります。
トーンコントロールで調整するのが回路の前か後ろかを「POSITION」で切り替えられます。前(PRE)で調整すると上げた方が強く歪みます。この機能で調整の幅が広がります。
FUZZPLUS 3
ダウンロード:AUDIO DAMAGE FreeDownloads
最初に発売された歪み系エフェクターがファズだそうで、トランジスタによる歪を発生させます。その後に現れたオーバードライブ等とはまた違う音色を持ち、60~70年代のロックでよく使われていました。
このFUZZPLUS 3もその当時のによく使われていたビンテージファズペダルの音色を模して作られているそうです。ファズは歪の度合いが強く、ガッツリ歪ませた音のイメージがありますが、FUZZPLUS 3はそういった強い歪みから軽く歪ませる程度まで調整しやすく、薄く歪ませた音にも独特の味わいがあって、何の楽器にでも使いやすそうに思えます。
画像左の「FILTER」とある部分はレゾナンス調整付きのローパスフィルターです。歪ませる度合いは「DISTORT」と「FDBACK」で調整します。FDBACKはフィードバック回路で、DISTORTが0になっていても少し歪んでますので、そのままFDBACKのみを上げて調整できます。
DYSTROYED
ダウンロード:Damage-Reccords
ディストーション&ビットクラッシャー。サンプルレートを落とす事も出来て組み合わせで色々な汚し方が可能。サンプルレートのエンベロープで途中からノイズが混ざってくるような感じにも出来ます。どちらかと言うと強めに歪ませる使い方に向いているでしょうか。
「DISTRESSON」を上げると歪が大きくなるのですが、音量も上がりますので「OUTGAIN」で調整して下さい。
「BITCRUSH」と「SAMPLERATE」は右いっぱいの位置でオフで、下げるとローファイ化します。右上のエンベロープはサンプルレートのエンベロープですのでSAMPLERATEを下げると操作可能になります。「ENV AMOUNT」は+-でエンベロープで変化する方向と強さを調整出来ます。
最後に
「歪み系エフェクターの使い方」でチラッと触れた歪み系とモジュレーション系の組み合わせは、UTAU(ボーカル)、特にキレ音源で使うとシャウトっぽい独特の効果が得られます。
それも含めて、UTAUで出力した音声のDAW上でのエフェクト処理については、また回を改めて書こうかと思っています。