【ミキシング基礎】モジュレーション系エフェクターの原理と使い方

【ミキシング基礎】モジュレーション系エフェクターの原理と使い方

 コーラス・フランジャー・フェイザーの音に揺らぎを加えるモジュレーション系エフェクターについて、「その3つはどう違うの?」「パラメータの意味は?」等、モジュレーション系エフェクターの仕組みを理解して使いこなす為の基礎知識を簡単に説明します。

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モジュレーション系エフェクター(コーラス・フランジャー・フェイザー)の原理

 コーラス・フランジャー・フェイザーは原理を少し説明されても、それでどうしてこんな音の変化になるのかが、元々ある程度の知識が無いと分かり難いと思います。その為ある程度使い慣れて、プラグインの各パラメーターをどう弄ればどんな音の変化になるのかが、分かるまでは扱いづらいかも知れません。

 パラメーターの意味を理解していただける様に、順に説明していきます。

音の位相について

 まず、前提になる知識として「音の位相」について。位相は英語では「Phase(フェイズ)」で、フェイザーの名の由来でもあります。

 サイン波(コサイン波でもいいんですが)を想像してください。このサイン波が波形図だとします。すると縦軸の波の幅が音圧、横軸が時間という事になります。

 このサイン波に、同じ波を少しだけ右にずらして重ねたとします。この「ずれ」が位相のずれです。

 位相を波長(波1個分の長さ)の丁度半分ずらすと元の波を上下反転させた形になります。これを「逆位相」と言います。逆位相の波はプラスマイナスが逆ですので、足し合わせると打ち消しあいます。

 いわゆるノイズキャンセリング等の原理なのですが、この「逆位相の波を重ねると打ち消しあう」という事を覚えておいてください。

コーラス・フランジャーとショートディレイ

 コーラスとフランジャーは原理を簡単に言うと、ショートディレイのディレイタイムを揺らしたモノです。ではショートディレイ、つまりごく短い時間分遅らした音を重ねるとどうなるかを説明します。

ショ-トディレイによる周波数特性の変化

 ごく短い時間分遅らした波を重ねるというのは、そのまま先に書いた位相をずらすという事になります。ですから、ディレイタイム(ずらす時間)が波長の半分の時には逆位相になって打ち消しあい、波長と同じならそのまま重なるので、大きくなります。

 単純なサイン波の場合それだけなのですが、実際の音は倍音を含んだ、つまり多くの周波数成分を合成した波形です。周波数で波長は決まるので、同じディレイタイム分ずらして重ねると周波数によって逆位相になったりそのまま重なったりします。逆位相になる周波数では最も小さくなり、そのまま重なる周波数では最も大きくなります。

 分かりやすい様にノイズ音に実際にショートディレイを掛けスペアナで見たのが下の画像です。ノイズというのはすべての周波数成分を含んだ音なので周波数特性の変化が分かりやすいので。

 縮小して貼り付けた時に線が見にくくなってしまいましたが、ご容願います。
 何もしていない原音と1ms・5ms・10msのディレイタイムでショートディレイを付加した時の画像です。

 逆位相になる周波数成分で谷になり、それが規則的に並んでいるのが分かって頂けるかと思います。こういう風にカットするフィルターをコムフィルターと言います。

 ディレイタイムが1msの時は最初の谷が500Hzにあり、ディレイタイムが長くなると最初の谷が低域に移動して谷の数が増えます。コーラスとフランジャーではディレイタイムを揺らしますので、画像でいうとコムフィルターの谷の数が変化しながら左右に揺れるという事になります。これが音で聞いたらビブラートになる訳です。

コーラスとフランジャーの違い

 ではコーラスとフランジャーで原理が同じなら、何が違うかと言うと、まずフランジャーは一般にディレイタイムが1~10msで、コーラスは同じくらいにも設定できるモノも多いですが、一般には10~30msで使用します。また、コーラスではフィードバックは掛けませんがフランジャーは掛けられます。

 画像で見た印象でもそうですが、ディレイタイムが10ms以下で、より短い方が、原音と比較して変化が大きく感じられ、10msを超えると変化は小さくなります。またフィードバックを掛けると独特の金属的な響きが加わりますので、フランジャーはコーラスと比べてより派手というか加工感の強いエフェクターと言えます。

オールパスフィルターとフェイザー

 で、もう一つのフェイザーですが、これは仕組みは違うのですが結果としてはややフランジャーに近くなります。

 フェイザーではオールパスフィルターというフィルターを使って音を変化させます。

 例えばハイパスフィルターなら定められた周波数以下でカットし、カット量は周波数が低い程大きくなります。つまりハイパスフィルターやローパスフィルターは周波数によって音圧を変化させるフィルターです。それに対しオールパスフィルターは周波数によって位相を変化させるフィルターです。

 原音とショートディレイを重ねると谷が規則的に並んで、コムフィルターを掛けた状態になりましたが、原音とオールパスフィルターを1回掛けた音を重ねると谷が1つできて、ノッチフィルターを掛けた状態になります。

 使われるオールパスフィルターの数は一つとは限らず、何枚か重ねられて、これを段数と呼びます。段数によってできる谷の数が変わってきます。

 下の画像はショートディレイの画像と同じ原音にオールパスフィルター4段の場合です。

 谷が2つできています。段数と谷の数との関係は後で個別のパラメーターの説明で書きます。

 フェイザーのビブラートは画像でこの谷が左右揺れる変化になります。また、フェイザーではフィルターを通ってきた信号をフィードバックさせる回路も組み込まれています。これによってフランジャーのフィードバックに似た効果があります。

モジュレーション系エフェクターの使い方とパラメーター

 上の説明で予想出来ると思いますが、コーラス・フランジャー・フェイザーのエフェクターとしての効果を「穏やかで自然な感じの変化」か「過激な加工感の強い変化」かの基準で並べると、変化の強い順に、フランジャー>フェイザー>コーラスになります。

 揺らぎを付加するのは共通していますので、揺らぎに関係するパラメーターの「Depth」と「Rate」は共通するパラメーターで、「Depth」は揺らぎの深さを、「Rate」は揺らぎの速さをHz(1秒当たりの揺らぎの数)で指定します。

 RateはDAWのテンポとテンポシンクできるプラグインもあります。揺らぎの速さもある意味リズムですから、曲のリズムと合わせた方が違和感がなかったりします。

 テンポシンク機能がない場合は、感覚で調整するか計算して合わせられます。計算式はRateの単位が「Hz」なので、《 Hz=BPM÷60 》で4分音符に、その倍で8分音符に、1/2で2分音符に合わせられます。

 プラグインによっては「シェイプ(Shape)」で揺らぎの波形を切り替えられる場合もあります。

 モジュレーション系のエフェクターはステレオの広がりを持たせる機能の付いたプラグインも多く、その場合パラメーターの「Spread」で広がり感を調整します。

 以下で他のパラメーターとそれぞれの特徴や使い方の例を簡単に解説します。画像は
3つとも揃っている「Blue Cat Audio」のエフェクターバンドルの「blue cats Chorus」「Blue Cats Flanger」「Blue Cats Phaser」です。

コーラス

 コーラスはこの3つの中で最も穏やかで、感覚的にショートディレイに近いので、ほぼショートディレイと同様にもう少し音に厚みが欲しいという時に、ボーカルやリード楽器等全般的に使えます。

パラメーター

 コーラスのパラメーターは、上に書いた仕組みが分かれば、特に分かりにくい点も無いかと思いますが、一応説明すると、まず「ディレイ(Delay)」はディレイタイムを指し、原音に何ms遅らせた音を重ねるかを設定します。

 「ドライ(Dry)」と「ウェット(Wet)」は原音(ドライ)とディレイ音(ウェット)の強さの比率を設定します。プラグインによって、それぞれの音圧を%で指定するモノと1つのツマミで 〇:〇 の様に比率を指定するモノがあり、1つのツマミの場合「Mix」というパラメーター名の時もあります。

フランジャー

 フランジャーはコーラスとは逆に変化の強いエフェクターなので、曲全般にずっと使っても良いですが、どちらかと言うとその特徴的な効果が欲しい時に部分的に使うイメージがあります。掛ける対象は特に限定されませんがシンセのパッド等に。

 割とさりげない使い方としては、ドラムのシンバル系に抑え気味に掛けたりします。

パラメーター

 フランジャーのパラメーターでコーラスには無い重要なパラメーターは「フィードバック(Feedback)」です。名前の通りディレイ音の繰り返しの強さを設定するのですが、これを強くする事でフランジャー独特の金属的の感じのエフェクトになります。

 「ディレイ(Delay)」はコーラスと同じくディレイタイムです。
 画像のBlue Cats Flangerで「フィードフォワード(Feedfwd)」となっているのはフィードバックの逆で最初のディレイ音の事で、コーラスのウェットに当たります、実際「Wet」になっているプラグインもあるかと思います。

フェイザー

 個人的なイメージかも知れませんが、ピアノ等の生楽器を素材としたサンプル音源にフェイザーがよくついている気がします。他の楽器が全体的にシンセ等の電子的な感じの音の中に生楽器のサンプル音源を使う場合、軽くフェイザーを掛けると音が馴染んで浮いた感じが解消されたりします。自然なエフェクトからガッツリ加工した感じのエフェクトまで調整しやすいので慣れると使い道は広いかも知れません。

パラメーター

 フェイザーのパラメーターはフランジャーに似ていますが、1つ違うのは「ステージ(Stages)」で、これは上で説明したオールパスフィルターの段数を指します。上にも書いた通り、段数で周波数特性の谷の数が変わります。1段と2段ではどちらも谷の数は1個ですが谷の出来る周波数が違います。以降は段数が2増える毎に谷の数が1つずつ増えていきます。
 谷が多くなるとコムフィルターに近くなりますので、音の響きとしてもフランジャーに似た感じになります。

 他のパラメーターはフランジャーと同様です。

最後に

 エフェクター処理でも音圧を上げる等は、他に問題が生じない限り、音圧は高い方が良いのですが、今回のモジュレーション系エフェクター等は音色を変化させる処理ですので良し悪しは感覚的な問題、ぶっちゃけて言ってしまえば作る人の主観次第です。
 言い方を変えると、どう弄ればどういう音になるのかさえ掴んでしまえば、自分の感覚で自由に、好きな様に作れる部分な訳です。

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