マスタリングについて――やり方と持っておきたいフリーVST

マスタリングについて――やり方と持っておきたいフリーVST

 今回のテーマはDTMにおける最終処理工程であるマスタリングです。マスタリングについての解説とマスターエフェクトとしておすすめフリーVSTプラグインを紹介します。中でも強力な統合ツール「limiter No6」の解説と使用方法を説明します。

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マスタリングとは

 楽曲の制作ですべてのトラックをステレオ2chに落とし込んだモノを2ミックスと言います。本来はマスタリングというのはこの2ミックスにエフェクト処理して完成させる工程を言います。

 ただ、個人でDTMの曲作りをしている場合は特別な事情がなければ、一旦2ミックスで出力する必要はありません。特別な事情というのは例えば、マスタリングだけ違う環境でやりたいとか、古いPCで作業していてそのままのプロジェクトでマスターエフェクトまで使うとCPUパワー的に苦しいとか、そういった事です。

 そういった理由が無く、そのままマスターにエフェクターを挿して完成状態まで仕上げて出力しても問題ないなら、一回の出力で構わない訳です。その場合は、マスターに挿して全体に掛けるエフェクト処理がマスタリングという事になり、全てのトラックを作ってから最後にマスターにエフェクターを挿して調整するか、作っていく途中適宜挿して調整しながら進め、最後に確認調整するかは、それぞれのやり方次第です。

マスタリングでのエフェクト処理

ではマスタリングでのエフェクト処理とは何をするかというと、基本的には以下の様なモノです。

  • 音圧上げ
  • EQでの周波数バランスの調整
  • サチュレーターやソフトクリッパーによって、色付けと曲全体の響きに統一感を持たせる
  • ステレオ感の調整

 音圧をクリアーな音質のままで上げるには、一つエフェクト工程で大きく上げるのではなく、様々な過程の中で少しずつ上げて、総合してみると大きく上がっているという方法が有効です。これを一つのプラグインで出来るのがlimiter NO6です。limiter NO6については後述します。

 最後のステレオ感の調整以外は今までの記事でも書いてきたので特に説明の必要は無いかと思います。まだ読んでいない方は良かったら過去記事を参照して下さい。

 ステレオ感の調整というのは、文字通りステレオの広がりを大きくしたりします。stereo expanderとかstereo tool等の名前でそのもののVSTプラグインもあります。ここでは個別に紹介はしませんが「free VST stereo」等で検索するとフリーのツールもいくつか出てくると思いますので興味のある方は調べてみて下さい。

 もう一つはm/s処理というのがあります。ステレオの中央の(m:mid)成分と左右の区別なく端の方の成分(s:side)の成分に分け、コンプレッサーやEQでそれぞれの強さを調整する事でステレオ感の調整や全体の音圧を上げるのがm/s処理です。

 m/s処理をするにはm成分とs成分に分ける必要がありますので、そういう機能を持ったm/s処理可能なプラグインが必要です。後で紹介するlimiter NO6のコンプレッサーにはm/s独立して掛けられる機能があります。

 EQでは以前VSTエフェクトを紹介した記事でも取り挙げた「Marbvel GEQ」がm/sそれぞれにEQ処理できます。

limiter No6について

 先に少し触れたlimiter No6について紹介します。limiter No6はvladg/soundというデベロッパーから提供されているフリーのVSTプラグインです。ちなみにTokyou Dawn Recordsの「TDR Limiter 6 GE」というプラグインもありますがこちらはlimiter No6をベースにした別のプラグインで仕様も少し違ってフリーではありません。

limiter No6とは

 limiter No6はRMSコンプレッサー・ピークリミッター・高域リミッター・クリッパー・ISPリミッターの5つのモジュールで構成された総合マスタリングツールです、音質を劣化させないクリアーな音圧上げが出来ます。各モジュールについては次の使い方で説明します。

 UIの表示を日本語にする事も出来て、日本語版のマニュアルやチュートリアルビデオも用意されています。

 上部のメーターは各モジュールでのリダクション、つまりどの程度音を抑えているかを示しています。

limiter No6のダウンロード

ダウンロードは下記リンクのページで。

ダウンロード:Downloads|vladg/sound 

「“Limiter №6” mastering modular limiter」とある下に各OS向け本体、スキン(skin)、マニュアル、チュートリアルビデオのリンクがあります。ご自分の使用OSの本体をクリックしてダウンロードして下さい。マニュアルとチュートリアルビデオはカタカナで「マニュアル」「ビデオ」と入っているリンクをクリックすると日本語版が見れます。

limiter No6の使い方

 詳しくは上記のダウンロードページのリンクから公式のマニュアルとビデオを見て頂くとして、ある程度かいつまんで説明します。
一般的なリミッターやコンプレッサーについての基本的な仕組み等はこちらを参照して下さい。

曲全体の音を大きくする、言い換えると音圧を上げる方法がミキシングの重要な基本と言えるのではないかと思います。DTMで音圧を上げる為に使われるエフェクター、リミッターとコンプレッサーについて説明し、音圧を上げる方法の基本的な考え方を解説します。

モジュールの処理順

 limiter No6のUIは画像の赤い枠で区切った5つのモジュールで構成され左からRMSコンプレッサー・ピークリミッター・高域リミッター・クリッパー・ISPリミッターの順に並んでいます。画像では縮小しているので字が読めないと思いますが、処理される順番は処理順の赤丸の文字をクリックして「comp>lim」と「lim>comp」が切り替えられます。

 「comp>lim」がUIの左からの順そのままでこちらが基本の順番です。「lim>comp」ではピークリミッターとコンプレッサーが逆になります。コンプレッサーの設定が深くなりすぎて不自然に感じられる場合はこちらの「lim>comp」の順で先にリミッターでカットしてからコンプに送る方が自然になります。

各モジュールの説明

RMSコンプレッサー

 最初のRMSコンプレッサーの「RMS」はRMS平均(2乗して平方根した平均)の意味でRMSではない普通のコンプレッサーはピークコンプレッサーです。ピークコンプレッサーはその時点の1点だけの値に対して動作しますが、RMSコンプレッサーは一定の区間のRMS平均値に対して動作します。

 そのためRMSコンプレッサーは圧縮の掛かり方が穏やかで自然な感じになりますが、その分反応が遅いという特徴があります。ですからこのRMSコンプレッサーはlimiter No6の前に普通の反応の早いコンプレッサで不自然にならない程度に掛けてその後に2段目のコンプレッサーとして更に圧縮するという使い方を想定されています。その方が1個のコンプレッサーで圧縮するより自然に音圧が稼げます。

 コンプレッサーのモードをm/sにすると上記のm/s処理の説明で書いたm成分とs成分で独立して処理されます。s成分のスレッドショルドはm成分よりも3dB深くなっているそうです。この時上のメーターは赤がmで緑がsです。普通はm成分の方がかなり強いのでm成分が大きく圧縮されます。

ピークリミッター

 ピークリミッターのモードは「ノーマル」ではスレッドショルドに達するとすべて抑え「ソフト」では1msより短いピークはスルーされます。「m/s」はコンプレッサーと同じくm/sで独立して動作します。「マルチバンド」は周波数で低域・中域・高域でそれぞれ独立して動作します。

「タイプ」はリリ-スタイム(スレッドショルドを下回ってからリミッティングがオフになるまでの時間)とニー(スレッドショルドよりニーの分だけ下から緩やかにリッミッティングが掛かり始まる)の設定が変わります。

「反応速度」は「1/3」<「1/2」<「ノーマル」の順に遅くなります。

高域リミッター

 高域リミッターは圧縮によって相対的に高域成分が強くなって、シンバルやボーカルの歯擦音などが突出して耳障りになった時、それを抑える為に使います。

クリッパー

 クリッパーはピークリミッターをソフトにした時にスルーしたピークを抑えたり、あるいは僅かに歪ませて響きに色付けしたりする目的で使います。
「ニー」は左側(マイナス側)に調整すると聞き始めが緩やかになりソフトクリッパーになります。

ISPリミッター

 ISPリミッターは日本語表示では「出力保護」と表示されています。
 ISPはInter Sample Peak(サンプル間ピーク)の略でトゥルーピークとも言います。

 デジタルデータでは音の波形をとびとびにサンプルをとってデータ化しています。そのデジタルデータからアナログ信号に変換される時に、サンプルとサンプルを曲線でつないだらその曲線のピークがサンプルのデータよりも上になる場合があります。これがサンプル間ピークでデジタルデータでは0dBを超えていなくてもサンプル間ピークで超える事もあります。ISPリミッターはこれを防ぎます。

「シーリング」は0dBよりも少し引いてリッミッティングする為の設定です。

その他のマスタリングにおすすめのVSTプラグイン

 以前のVSTエフェクターの紹介記事でも取り挙げていますが、limiter No6以外でマスタリングに役立つおすすめのプラグインを紹介します。

SlickEQ

ダウンロード:TDR VOS SlickEQ|TOKYO DAWN RECORDS 

 SlickEQはサチュレーター付きの3バンドEQ+低域カット用のハイパスフィルターです。

 3バンドEQは画像で「American」と表示されている部分切り替える事で、通常のEQならQ値やスロープ(6dB/octとかの値)で設定するカーブ特性を4パターンから選択します。詳しく見たい方はダウンロードページの「User Manual」にグラフが載ってますので参照して下さい。

 オン/オフ可能なサチュレーションは右側の「OUT STAGE」と「CARIBRATE」で倍音の発生を変化させて、音色を調整できます。

 比較的シンプルな構成で使いやすく、細かな音色の調整も出来る優秀なプラグインです。

TDR Nova


ダウンロード:TDR Nova(TOKYO DAWN RECORDS) 

 同じTOKYO DAWN RECORDSのプラグインで、TDR Novaは4バンド+ハイパス・ローパスのイコライザーですが、4つのバンドはそれぞれがコンプレッサーとしても機能しますので、4バンドのマルチバンドコンプレッサーでもあります。広い周波数帯域での音圧とダイナミクスのバランス調整を高い自由度で行えるので、マスタリングをはじめとしてドラムバスやボーカル等に有効です。

 操作も直感的に分かりやすく使いやすいです。

MJUC jr.

ダウンロード:MJUC jr. – variable-tube compressor 

 有料の上級機でMJUCというビンテージコンプレッサーの簡易版で、MJUCに搭載されている2つのアルゴリズムを統合したモノだそうです。

 倍音を付加するサチュレーションを伴ったナチュラルで深みのある音を作り出します。楽器の音が存在感を増し、かつ自然に仕上がりますのでマスタリングにもおすすめです。

 シンプルなUIで操作も簡単です。ちなみに「TINE CONSTANTS」の切り替えはアタックやリリースだけでなくサチュレーションの掛かり方にも影響するそうです。

最後に

 その他のおすすめプラグインで3つご紹介しましたが、これに加えてスペアナのSPANとEQのMarvelGEQもおすすめです。この2つの組み合わせでEQのm/s処理が比較的簡単に出来ます。それについては次回に書くつもりです。

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